影の話 なにも無い空間 空に浮かんでいる雲が目の前にある。 自分の性格。それは 空に浮かんでいる雲のように・・・ふんわり さらにまったりマイペースに進んでいく・・・ 目の前にある雲を見て、まるで自分を見ているようだった。 世界のどこからでも見える雲。どんな場所にいても、そこが地球であるならば、みな同じ空を見上げている。 その空の色は 青だ。 青は 自分にとって 悲しみから生まれる涙。恋愛のような話から生まれる嫉妬。 純粋の心。いろんな比喩表現ができる。 そんな空を 地球にいるすべての人間、動物、植物は見上げている。 ・・・ところで 自分はなぜここにいるのか。どうやってここにきたのか。 ここにいる前の過去を思い出そうとしても思い出せない。地面は・・・透明なのか 見えない ただ歩ける。歩いてみた。どこまでもどこまでも。だが景色は変わらない。 自分が今見ているものが現実なのか。これは 夢 か?  歩いているうち 自分は家のことを思い出した はっ 家は? 家はどこだ! 無心に走ったって景色は変わらない わかっていても探してしまう。 この空間は・・・なんなんだ。 ようやく事態の深刻さを理解した自分は、焦りだした。・・・が いくらあがいたって何も変わらないのはわかっていた。 自分はただ仁王立ちするだけだった。先を見つめても何も無い。 いくら走ったって景色は動かない なにも変わらない 雲も動かない。 動いてるものは自分だけ 自分の足元にある自分の影を見た。 影とは 光が物にあたり、その物の後ろ側には、物の形をした黒色の絵が生まれる 影は真実だ。物がここにある。 自分の動きにあわせて影も動く 影はうそをつかない 影は真実だ。 影は一生自分についてくる どうやったって離れない 影は魔物だ。 自分の影なのに 影は魔物だと思った。頭の中にアニメのような絵が浮かんだ。 自分の影が怪物に変わる絵だ。恐ろしくなった。影を蹴り飛ばしても 離れない。 怖くなった。この空間に自分ひとりしかいない 一人はいやだ。こわい・・・ 無意識に、人がいっぱいいるところに行きたくなった。目を閉じた。目を閉じると当然真っ暗になる。 だが、真っ暗な中にうっすらと・・・人ごみの中に自分がいる絵が浮かび上がった 目を開けた。人がいっぱいいた。  あたりを見回す。一回だけ瞬きをした。帰ってきた。  この空間に。いったい何をしに? なぜここにきた。 また走った。・・・だがいくら走ってもなにも変わらない 雲は動かない 景色もなにも動かない 動いているのは自分・・・それと影 影は自分についてきてくれる。自分は一人じゃない。自分という個のポテンシャルをうまく引き上げようとする自分の姿を映す影は 自分の味方だ。自分は一人じゃない。無心に歩いていると 頭の中で 今の自分が浮かび上がった。 走っても何も変わらない 変わっているのは自分だけ ただ孤立している自分の絵が浮かび上がった。 なぜ。なぜか自分の浮かびあがっているビジョンが 勝手にシナリオを作り上げていく。 自分は何も考えていない むしろ頭の中で披露されている映画のような映像に驚いた。 ここから脱出する場所が写った。自分の影。影が扉。 どういうこった?わけがわからない  影は・・・自分はここにいるという真実を写すが、自分から一生離れない魔物。 影の気持ちを理解しようにも そんなことはできない。 影がどういう性格なのか、影はまず生きているのか、影はしゃべれるのか。 影のことを知りたいと思い始めた。 いっそのこと 自分がどうにかして影になって、影の気持ちを理解したい。 ・・・だが そんなことはできるわけがない。今のところ、自分はわけのわからないことを考えている。 影を理解するために影になる必要はない。この言葉は「影」以外の言葉でも引用できる 木を理解するために木になる必要はない。シーザーを理解するためにシーザーである必要はない。 それぞれの物に、それぞれの考え方がある。その物とまったく一緒にならなくても、理解することは可能なのかもしれない。 影 自分はお前と一生を過ごす。だからこれからも自分についてきてほしい。 ・・・ 影はなにも言わなかった。 ため息をついた。 ため息をついた自分を写す影を見た。 影もため息をついていた。・・・それはそうだ。影は俺自身であり、俺のおかげで作られているんだから。 影・・・お前はクロ クロの影 なにがあっても 色はクロだ ひょっとしたら 全部の影は みんな同じ影なのか。 同じ気持ち。 それとも われわれ人間のように、それぞれに考えがあり、ときにはかみ合わない ときには自分の趣味が合い、話が弾んでいくようなものなのか。 影はクロ クロの影。世界中に存在する物にはかならず影が付きまとう。  一生はなれない。その物が消えない限り。影は魔物だ。  影が怖い あたりを見回した。 場所が変わっていた。 小さい隕石が 地球に落ちてきていた。自分はそれを、高台からただ見ていただけだった。 しかし建物は、今の風景とはまったく違う。近未来に来たようだった。  涙が出た。こわい。なにがなんだかまったくわからない 瞬きをした。帰ってきた さきほどの空間に。自分はまた自分の影をみた。 影に問いかけた。あれは真実なのか?今先ほど自分が見ていた映像。将来本当にああなって、下手したら地球が・・・ なんてことがあるのか? ・・・影は初めて 意見を言った。  自分を写す影は、どんどん薄くなって 消えた。 そしてまた元に戻った。くっきりと自分を写す。 ・・・うそなのか。影は真実だけ写す。そこになにかあれば 必ず影をつくる。なにもなければ影もない。影はうそをつかない。 そして今、自分の影は一瞬だけ消えた。 ・・・さっきの映像はうそだ。 影に問いかけた。 自分は・・・なぜここにいる? 影は ・・・なにもしなかった。何も変わらなかった。先ほどのように自分から意見を言わなかった。 ・・・影はしゃべった。  「お前がいつまでここにいようと 私はここにいる ・・・しかし お前はいつまでここにいるつもりだ?」 影はしゃべった。 ここにいるつもりだ? 好きでここにいるわけじゃない  どうやったら出られるんだ。わけがわからなかった。口には出さなかった。 影はこうも言った 「私は、私が見える世界を、お前に見せているだけ。私達影は、世界を見せることができる。お前が自分で見ようとする世界に、影は一切存在しない」 ・・・頭のなかは?マークばかりだ どういうことだ。  だが・・・ふと思った。学校に通うとき、いや どこでもいい。行きなれた場所に向かうとき、別のことを考えながらいく。 いちいち ここを→に曲がる・・・左にまがるなんて思わないで、足が勝手に動いていくときがある。 本を読みながら歩いているときもそうだ。すれ違う人がいない限り 本に夢中で町を見ない。脚は勝手に動く。 勝手に道を曲がる。だがそのときは、影のことなんて一切考える人はいない 言い切れることだ。 なにか夢中になっている最中、自分の影、いやものの影のことを考える人なんていない。 ひょっとしたらその時実は・・・影なんてものはないんじゃないか 自分が見ようとした世界に影は一切存在しない・・・影がいった言葉を思い出した。 自分がみようとした世界・・・ だめだ もうわけがわからない。 影に問いかけた。自分さえ今何を考えているかわからない 影 自分を、正しい道へ導いてくれないか ・・・かってに体が動いた。歩いている。驚いて足元ばかりを見ていた。そのとき。肩にドカっとなにかあたった。 声がした。「失礼しました!」と。 声がした主の方向を向いた。自分の地元駅のホームにいた。瞬きをした。 しかしホームにいる。 やっと戻ってこれたのは自分の中で理解した。だがうれしいとは思わない。 影はまったく反応しない。  あれほど離れたかった空間に、今は戻りたいと思った。 以上 わけのわからない影の話