Mysterious Museum ●主人公(♂) 美術館に迷い込む青年。 ●管理人(♀) 美術館を管理し、案内も務める女性。 ●絵@(♂) 特に特徴はない。 ●絵A(♂) 特に特徴はない。 ●絵B(♀) 特に特徴はない。 ●ナレ(両) 特に特徴はない。 ナレ:ミステリアスミュージアム、この物語の主人公は夢を見ていた。 主人公:zzz……ん……んお? ナレ:気がつくと、彼は美術館にいた。    そこはとてつもなく広く、美しい場所だった。 主人公:んおー?      ……なんだここ……? 広いな……。     美術館……か? ここ……。 ナレ:独り言を呟く彼に、一人の人物が近づいてきた 管理人:こんばんは、お客様なんて何年ぶりかな……。     いらっしゃいませ。 ナレ:この、美術館のような建物に相応しい、スーツを着た女性だった。 主人公:ん? ……お客様……? 俺が……?     えーっと……ここは……? 管理人:見ての通り美術館です。     ここは広いから……じっくり見て行ってください。 主人公:は……はぁ……。     なんで僕こんなとこにいるんだろうな……あぁ、夢か……。 管理人:夢ではありません。     限りなく現実に近い空間ですよ。     あなたは今、美術館にいます。     この事を忘れないで。 主人公:???……わ、わかりました……。     えっと……あなたは……?      管理人:私は、この美術館の管理人です。     来場されたお客様をご案内しております。      主人公:は……はぁ……。 管理人:それでは、まずはこちらにおいでください。     素敵な絵がたくさんありますよ。 主人公:え? あ……はい……。 ナレ:そう言って主人公を招く管理人。    彼女に案内され廊下を歩いていると、たくさんの絵が展示されている部屋に出た。 主人公:……で……僕はココに来て一体どうしろと……? 管理人:絵を好きになってもらいます。     あの絵をご覧になって。      主人公:え? 絵を好きになれ、って言われても……。 ナレ:戸惑いながらも、主人公は管理人が指差した絵を見た。 主人公:海の……絵? 管理人:そう、あの絵の前に行って目を閉じて、その絵が動いているのを想像してみてください。 主人公:は……はい……。 ナレ:そう言われて、戸惑いながら主人公は絵の前まで足を運んだ。 主人公:綺麗だ……この絵は? 管理人:ご覧の通り、海の絵です。     どうぞ目を閉じ、想像なさってください。 主人公:…………。 ナレ:言われたように主人公は目を閉じ、絵が動いているのを想像した。 主人公:…………。 絵@:いらっしゃい、やっと来ましたね! 主人公:んえ!? だ、だれ!? 絵@:私はあなたの想像……というべきかな。    あなたがこの絵で、もし人が現れるのであらば、こういう人が似合うんじゃないか……    っていうその想像で私は作られた。    私はあなたに何回も呼びかけてますが……あなたが想像しない限り私は出てこれなかった。    まぁ、あなただけじゃないけどね。    私のような人物像を頭の中で描くのは。 主人公:……じゃ、じゃあ……あなたは僕の想像の人なの? 絵@:そうです。 主人公:なら……なんで会話できてるんだ? 絵@:そして今、あなたは私のところにやってきた。    やっと、会えましたね。 主人公:あれ?     ……いやだから、なんで会話できてるの? 絵@:私のようにあなたを待ちわびている絵は他にもあります。    どうぞゆっくりこの美術館をご覧になってください。 主人公:……聞こえてない……のか?     えっとー……はい、わかりました……ありがとうございます。 絵@:いえいえ、私はこの絵の中でずっと待ってますよ。 ナレ:そして主人公は目を開けた。 管理人:いかがでしたか?     素晴らしい絵でしょう? 主人公:え、ええ……誰かいましたけど……。 管理人:誰か?     ……ここには誰もいませんよ。 主人公:……なぜ……誰もいないの? 管理人:ここは人間の想像で作られた美術館です。     ここを誰かが想像しない限り、入ることはできません。     あなたは夢の中でこの美術館をイメージした。     だからここにやってきた。     ……と、私はそう思いますけどね。     実は、私自身もよくわかりません。       ここの管理人をやり始めてからは。 主人公:そうなんですか……。     えっと……次の絵は? 管理人:こちらはいかがでしょう。     これは花の絵です。 主人公:綺麗だ……これも目を閉じれば……? 管理人:どうぞ。 ナレ:再び主人公は目を閉じた。 絵A:こんばんは、よく来ましたね。 主人公:また……誰かいる。     あなたも……僕の想像で作られた人物? 絵A:その通り、私はあなたが想像した生け花というカテゴリーに興味を示した学生です。 主人公:え……?      そんなの……想像した覚えがない……。     あなたも僕を知っているんですか? 絵A:もちろんですよ、知らないなんてことはありえません。    あなたの想像で生まれた人物像なのですから。 主人公:そうですか……。 絵A:なんていえばいいのか……人は子供の頃からいろんな将来を想像します。    一時期、あなたはこの生け花に興味を示した。    そうして想像していたのが、今の私のような人物像。    想像は人間の「イド」です。    イドとは、人間の本能。    想像することは人間の本能。 主人公:イド……僕はまた……今からでも将来について想像したら、あなたみたいな人物が出来上がるんですか? 絵A:もちろん。    あなたが想像すればするほど、私達はいろんな形、姿で生まれるでしょうね。 主人公:そうですか……ありがとうございました。 ナレ:そう言って主人公は目を開けた。 管理人:いかがでしたか? 主人公:い……いい絵ですね、この花の絵は……。     ……あの……管理人さん。 管理人:なんでしょう。 主人公:僕がこの美術館の管理人はこういう人だと想像したから、あなたは今ここに存在しているのですか? 管理人:もちろんです。 主人公:もし、僕が別の人の人物像を想像したら……あなたは消えてしまう? 管理人:そうですね……わかりません。     ですが私は、一人の人間として……     そして、この美術館の管理人になることを自分で望んでつかんだ立場ですから……多分消えはしないでしょうね。     今では、いらっしゃったお客様を案内するだけで喜びを感じます。     苦労をした後、必ずその苦労は後になって自分をより良い未来へ誘(いざな)っていく。    主人公:じゃあ……あなたは個人の考え……自我を持てているの……? 管理人:そうですね、自分で言うのもなんですけど。 主人公:なるほど……次の絵に案内してもらえますか? 管理人:わかりました。 ナレ:主人公は管理人に案内され、次の絵の前に立った。 主人公:……猫だ。 管理人:どうぞ。 ナレ:管理人の声とともに目を閉じた主人公。 主人公:……この猫……見覚えがある。 絵B:そうでしょうね、私もあなたをよく覚えている。 主人公:あなたは……僕の家の猫だ。 絵B:私はとてもあなたに愛されていると思います。    とても感謝しておりますよ。 主人公:あなたは……女性だったのか。 絵B:性別は私はわかりません。    私はあなたの想像の声です。    あなたが女性だと思うのならば、私は女性なのでしょうね。 主人公:なるほど……もし僕がこの猫を、人物に例えたとして想像したら……。     あなたはその通りになってしまうの? 絵B:そうかもしれませんね。    私にはわかりません。 主人公:そうですか……。     わかりました、ありがとう。 絵B:またいつでもいらっしゃってください、楽しみに待っています。 ナレ:そして主人公は目を開けた。 主人公:この猫……いや……なんでもないです。     いい絵ですね。 管理人:でしょう?     私も好きです、この猫の絵は。 主人公:……管理人さん、一つ聞いてもいいですか? 管理人:なんでしょう? 主人公:僕がこの美術館の管理人になったという想像をしたら……あなたはどうなるのですか? 管理人:私にはわかりません。     あなたが想像したように動くのかもしれませんね。 主人公:……管理人さん、目を閉じて……10秒たったら目を開けてください。 管理人:わかりました、やってみましょう。 ナレ:管理人は言われたとおりに目を閉じた。    そして10秒後……。 主人公:いかがでしたか? 管理人:……すごいですね……私が管理人になった想像のお話を見ることができました。     ……それで……ここは……私の想像で作られた場所? 主人公:その通り、そして私はこの美術館の管理人を務めています。 管理人:……じゃあ、もし私が管理人になった……という想像したら……その通りになるんですか? 主人公:そうですね……わかりません。     ですが私は、一人の人間として……     そして、この美術館の管理人になることを自分で望んでつかんだ立場ですから……多分消えはしないでしょうね。     今では、いらっしゃったお客様を案内するだけで喜びを感じます。     苦労をした後、必ずその苦労は後になって自分をより良い未来へ誘(いざな)っていく。    管理人:じゃあ……あなたは個人の考え……自我を持てているの……? 主人公:そうですね、自分で言うのもなんですけど。     それでは、次の絵を見にいきましょうか……。 ナレ:そう言って、主人公は管理人だった女性と一緒に部屋から出て行った。        ……ここはミステリアスミュージアム。    人間の想像によって生まれた場所。    人間にとって想像とは「イド」である。    この物語の主人公は、ミステリアスミュージアムの管理人となって人生を送っていくことだろう。    彼がそれを望み、想像を続ける限り――――。