お嬢様のタシナミ ●フィーニア(♀)16歳 あまり上品ではないが、実は頭の切れるお嬢様。 ●レイド(♂)26歳 冷静で礼儀正しいが毒舌なフィーニアの第一執事。 ●セバス(♂)15歳 おっちょこちょいで無邪気なフィーニアの第二執事見習い。 ●ルーティ(♀)16歳 高飛車でとにかくウザイ、フィーニアの「おともだち」のお嬢様。 ●グランス(♂)28歳 負けず嫌いで妙にプライドの高いルーティの執事。 SE:扉 セバス:お嬢様ー!     大変ですよー! フィーニア:どうしたのよ、騒がしいわね。 セバス:急に……急にルーティ様がお見えになられました! レイド:本日ルーティ様がお見えになるご予定など聞いていませんが。 フィーニア:なによ、また何か自慢しにでも来たわけ?       この前は黒曜石の指輪だったっけ?       あー、めんどくさいなー、もー。 セバス:ど、どどど、どうしましょう!? フィーニア:いいからあんたはもう少し落ち着きなさい。 レイド:どうするもなにも、お通ししないわけにはいかないでしょう。     セバス、あなたはお茶の準備でもしていなさい。     くれぐれもテーブルを汚さないように。 セバス:は、はいっ! SE:走る足音 SE:扉 レイド:お待たせしました。     お日柄もよろしく、本日はどのようなご用件で? ルーティ:おほほ、レイドさん相変わらず礼儀正しいですわね。      ちょうど近くまで来たものだから、少し寄ってみただけですわ。      お邪魔してよろしいかしら? レイド:ご予定も無しにいらっしゃいましたので、何のもてなしもできませんが、どうぞ。 ルーティ:おほほほほ、いきますわよ、グランス。 グランス:はい。      それでは失礼します。 SE:足音、扉 ルーティ:おほほ、御機嫌よう。 フィーニア:いらっしゃーい、何しに来られたんですかぁ? ルーティ:少し用事でこの近辺まで来ましたので寄らせていただきましたわ。 フィーニア:真っ直ぐに帰ればいいのに。 セバス:お、お嬢様ぁ……。 ルーティ:あら、そうだわ、私(わたくし)、お土産を持ってきましたのよ。 フィーニア:……始まったよ……。 ルーティ:グランス。 グランス:はい。      失礼ですが、厨房の方をお借りしてよろしいですか? セバス:えっ? 厨房ですか? レイド:何をお考えか分かりませんが、構いません、どうぞ。 グランス:ありがとうございます。 SE:足音 セバス(い、いいんですか?) レイド(ここで拒否したところでどうします。     どうせ無理難題を押し付けて厨房を使うつもりでしょう) フィーニア:人の屋敷の厨房を借りて何をされるんですかぁ?       あなたのところの執事さんは。 ルーティ:おほほ、先日、とても美味しい紅茶を手に入れましてね。      是非「おともだち」のフィーニアさんにも召し上がって頂きたいと思いまして。 フィーニア:……へぇ〜、それはどうも。       さぞかし美味しい紅茶なんでしょうねぇ。 グランス:お待たせしました、どうぞ。 SE:食器の音 セバス:うわあ、すごくいい香り。 ルーティ:おほほ、遠慮なくどうぞ。 フィーニア:はいはい、いただきます。       ……美味しい……。 ルーティ:おーっほっほっほ、そうでしょう。 レイド:これは……セルジューク地方でしか収穫できないと言われる、ジョルジ……?      グランス:さすがはレイド様、よくご存知で。      ジョルジのシルバー・ファイン・ティッピー・ゴールデン・フラワリー・オレンジ・ペコでございます。 フィーニア:うわー……うぜぇ等級……。 セバス:シルバー……ファイン……って、何ですか? フィーニア:セバス、余計なことを……。 ルーティ:最高級の紅茶につけられる等級の名前ですわ、おほほほほ。 グランス:茶葉のゴールドチップ、シルバーチップを多く含んだ最上級の茶葉です。 レイド:よくそのような茶葉を手に入れることができましたね。     よほどお金も手間もかかったでしょう。     この一杯のため「だけ」に。 SE:食器 フィーニア:あ〜、美味しかった、ご馳走様〜。 ルーティ:おーっほっほっほ、お気に召しまして?      ……あら、このお屋敷では客人にお茶も振舞わないのですの? フィーニア:……よくもまあぬけぬけと……。       いいわよ、レイド、こんな図々しいお客様にお茶なんて出さなくても。 セバス:お、お嬢様、聞こえてますよ……! フィーニア:お茶を出しても、毎日こんな高級な紅茶を飲んで、       肥えに肥えた舌をお持ちのルーティさんのお口には合わないでしょうからね〜。 レイド:申し訳ありません、お嬢様の命令は絶対なので。 ルーティ:ふ〜ん……自分の家のお茶の味に自信がなくて? フィーニア(このクソ女が……わざとらしい……) セバス(お、お嬢様……! ここは堪えて……!) レイド:お嬢様が申した通りです。     先ほどお出し頂いた紅茶をルーティ様が毎日お召しになられているかと思うと、     私(わたくし)どもがお茶を振舞うのは失礼に値します。 ルーティ:おーっほっほっほ、謙遜しなくてもいいのよ。      わたくし、あなたのお宅の紅茶を飲んでみたいわ。 レイド:よろしいのですか?     最近はお嬢様は健康に気遣って、毎日ドクダミ茶をお召しになっておられます。 ルーティ:え? レイド:その影響で、今は屋敷の者は皆ドクダミ茶を飲むようになりまして。     屋敷にはドクダミ茶しか置いておりません。     仕方ありません、ルーティ様のお口に合うか分かりませんが、すぐに用意させましょう。 ルーティ:いや、えっ、ちょっと……。 レイド:セバス、ルーティ様とグランス様のために濃縮250%のドクダミ茶を用意してください。 セバス:はいっ! 今すぐにっ! グランス:お嬢様、そろそろお暇いただきましょう。      間もなくカルスバーグ伯爵が屋敷に来られる時間です。 ルーティ:はっ……そ、そうだったわね!      忘れるところでしたわ、おほほほほ。      それでは失礼しますわ。 グランス:ご好意だけありがたく受け取っておきます。      それでは失礼します。 SE:足音 フィーニア:……あんのクソ女があああああ!       腹立つ!腹立つ!腹立つーーー! レイド:毎回、何がしたいのでしょうね、ルーティ様は。 フィーニア:ただ自慢したいだけなのよ!       そして悔しがってるあたしの姿を見たいだけなんだわ!       確かにあのお茶美味しかったけどっ! レイド:本当に高級品ですからね。 フィーニア:本当に美味しかったのが悔しいのよ!       なんなのよあの紅茶の美味しさ、バカなの!?       もっと味わって飲みたかったっ! レイド:私は美味しくいただきました。 フィーニア:きぃぃ! ずるいわ! あんただけっ! セバス:お待たせしました! 濃縮350%ドクダミ茶です。     ……あれ、ルーティ様は? レイド:セバス、残さず飲んでくださいね。 後日 SE:本をたたむ音 フィーニア:よし、決めた。 セバス:どうしたんですか? フィーニア:レイド、ジョルジを買占めなさい。 セバス:えっ? レイド:……よろしいのですか?     ジョルジは高級茶葉、ましてや市場を独占するとなると相当な額が……。 フィーニア:いいの、まだうちにはお金あるでしょ?       できるの? できないの? どっち? レイド:……可能ですが、お勧めはいたしません。 フィーニア:できるのね。       じゃあ、よろしくっ。       あ、できるだけ早めにね。 レイド:……かしこまりました。 セバス:レイドさん、ジョルジを買い占めるのって、どれくらいお金かかるの? レイド:そうですね、私が知りうる限りで試算しますと、金貨換算で2万枚ほどになるでしょうね。 セバス:え……僕の月給、金貨15枚だから……。 レイド:減給も覚悟しておいてくださいね。 セバス:えぇー!? 後日 セバス:お嬢様ー! フィーニア:なによセバス、今日も無駄にうるさいわね。 セバス:ルーティ様がお見えです! フィーニア:はぁ……また来たか、あのめんどくさいのが……。 セバス:ど、どうしましょう……! レイド:答えは決まっているでしょう。     セバス、もう少し学習しなさい。 セバス:ええっ?     えっとぉ〜……追い返します? レイド:セバス、あなたはトイレ掃除でもしていなさい。 SE:扉 ルーティ:おほほほほ、ご機嫌よろしくて? フィーニア:はいはい、よろしいですわよ。 SE:布の音 グランス:お嬢様、落とされましたよ。 ルーティ:あら、ありがとう、グランス。 セバス:うわあ、綺麗なハンカチ。 ルーティ:おーほほほ、お気付きになって?      先日、東方の国から取り寄せたのですわ。      このシルクのハンカチ。 セバス:東洋のシルクって超高級品じゃないですか! グランス:正真正銘、東洋で生産された絹でございます。 ルーティ:おーっほっほっほ、素敵でしょう、この輝き。 フィーニア:うわー、きれいー(棒) レイド:失礼します。 SE:食器 ルーティ:あら、紅茶かしら、ありがとう。      ……あら? フィーニア:どうぞ〜、遠慮なく召し上がれ〜。 グランス:……この香り……ジョルジ……? レイド:はい、先日ルーティ様に振舞って頂いたジョルジをお嬢様が大変お気に召されまして。     今では屋敷中の者が毎日飲んでおります。 ルーティ:グ……グランス……。 グランス:……これは私としたことが失念しておりました。      お嬢様、そろそろヨークヘルドでの会合の時間です。 ルーティ:そ、そうだったわね!      それでは失礼しますわ、おーっほっほっほ……! SE:扉 セバス:……今日はすんなり帰られましたね。 フィーニア:せいせいするわ。       ん〜、やっぱ美味しい、ジョルジ♪       さすが高級茶葉よね〜。 セバス:ジョルジと何か関係があるんですか? レイド:先日、お嬢様の指示でジョルジの市場を独占したのは覚えていますか? セバス:ええーっとぉ……そんなこともあったような気が……。 レイド:……まあ、いいです。     その後、異常気象、交易不均衡が重なり、ジョルジの価値が高騰したのです。     そして、お嬢様がジョルジを買占め、市場に出回っている量が極端に減ってしまったので、     ルーティ様も簡単には手に入れることができなくなってしまったのでしょう。 セバス:えーっ、それじゃあ、僕なんかが飲んでいいお茶じゃ……。 レイド:だから先ほども言ったではないですか。     ジョルジの市場はお嬢様が独占した、と。 フィーニア:ねー、レイドー、結局どれくらいの価値になったの? レイド:買い付け時は金貨1万8千万でしたが、現在、価格が10倍程になっております。 フィーニア:ふ〜ん、そっか。       早めに買っといて良かったー。 セバス:え? ということは……。 レイド:現在、金貨18万枚分の茶葉という資産がこの屋敷にあるということです。 セバス:……あ、なんか雲の上の話すぎて分からなくなってきた……。 レイド(あの時、ジョルジを買い占めると言い出した時にお嬢様の机にあったのは歴史、経済、技術、統計学の本。     そして毎日のように他国の新聞にも目を通されていた。     まさか、ジョルジの高騰を見越して市場を独占したのなら……。     お嬢様……恐ろしい子……) フィーニア:レイドー、おかわりちょーだい。       あ、マフィンもよろしくねー。 レイド:……はい、かしこまりました、お嬢様。