Re:Real Back the home ●リール(♂)20歳 物静かだが、頑固な青年。記憶を失っている。 ●リリア(♀)19歳 穏やかな女性。 ●リト(♂)20歳 口調は荒いが、優しい青年。 画像:崖の向こうに広がる大平原 SE:風 リリア:……珍しいですね、こんなところに人が来るなんて。 リール:あんたこそな。     こんな崖で何をしている?      リリア:……別に……いい景色ですよね、ここ。     私のお気に入りの場所なんです。     風も気持ちいいし。      リール:……そうだな……。 リリア:あなたは、ここに何をしに来たのですか? リール:意味などない。     歩いていたら辿り着いただけだ。      リリア:お散歩の途中でしたか。 リール:……そんなところだ。 SE:風 リリア:……どこから、歩いてきたんですか? リール:……さあな、忘れちまった。 リリア:家は? リール:……無い。 リリア:旅人……ですか? リール:そうなるんだろうな。 リリア:旅人の方でしたら、馬や馬車などを使えばいいのに。 リール:……俺は、自分の足で歩きたいんだ。     ただ、この手紙だけを頼りに……俺は歩いている。 リリア:何のために? リール:理由も忘れちまった。     もう、覚えていないんだ、過去の事を。      リリア:記憶が……ないんですか? リール:ああ……。         気がついたらこの手紙を持っていた。     手紙とは言っても、中身はない、封筒だけだけどな。 リリア:Re:Real Back the home……あなたが出した手紙の返信? リール:そうなんだろうな。     俺はこんな手紙を出した覚えはないが。      リリア:……あなたは、家に帰るために歩いているんですか? リール:分からない。     気がついたら歩いていたんだ。     行く先々で思う、俺はどこに向かっているんだろう、と。 リリア:あなたは、その手紙を見て歩き出した。     Real Back the home……。     あなたは、本当の家を、探しているんじゃないんですか?      リール:本当の家……。 リリア:……この近くに私の家があります。     家族と一緒に住んでいますし、ここをあなたの家にしてもいいんですよ。     歩く事に疲れたら、帰ってきてください。      リール:……あんたは、信じていい人間なのか? リリア:えっ? リール:いや、すまない……なぜか、そう聞きたかった。     過去の俺に何かあったのかもしれないな……。     今のは……忘れてくれ……。 リリア:……はい。 リール:今の俺には信じられるものがこの手紙しかない。     いつまでも歩いてやるさ、俺は。      リリア:そうですか……見つかるといいですね。     本当の家。      リール:ああ……。     邪魔したな。      リリア:いえ、また立ち寄ってください。     あなたの歩く先には、必ず道がありますから。      リール:…………。     ああ……。 SE:足音 リリア:……不信に思うのも仕方ないよね……。 画像:山奥、崖の下、岩肌 リト:なんだい?    何か用かい?     リール:……いや……歩いていたらここに辿り着いただけだ。 リト:なんだよそれ。    こんな山奥まで観光に来る奴なんていねぇぜ。     リール:……迷惑だったか? リト:別に迷惑じゃねぇけどよ。    何の用も無しにここに来るってことはさすがにねぇだろ?     リール:本当に何の用もないんだ、悪いな。     あんたこそ、なんでこんな山奥に? リト:えっ?    あー……ふらっと散歩に来ただけだよ。 SE:鳥の音 リール:なあ、俺たちがいる地球って丸いんだよな。 リト:なんだよ、いきなり。 リール:だとしたら、真っ直ぐに歩き続けたらまたここに戻ってくるよな。 リト:ぷっ、バカじゃねぇの?     お前は地球のデカさを知ってんのか?    それに、山だって海だってあるだろうよ。    真っ直ぐに歩き続けるなんて無理な話だ。 リール:それでも……歩き続ければ、帰ってこれるよな。 リト:まあ、理論上はな。    ……でもよ、無理して真っ直ぐ歩く必要はないんだぜ?    たまには寄り道するのもいいかもしれねぇ。     リール:……俺は、いつだって黒でいたいんだ。 リト:は? リール:真っ直ぐ歩くと決めたら真っ直ぐ歩く。     横道にそれて灰色になりたくはないんだ。      リト:また変に頑固だねぇ……でも、それじゃ疲れちまうぜ。 リール:それでも俺は、歩き続けてみせる。 リト:何がそこまでの原動力になってんだかねぇ。 リール:……俺が持っていた手紙は、真っ白じゃなかった。 リト:は? 手紙? リール:ああ……気がついたら、持っていたんだ。 リト:Re:Real Back the home……なんだこりゃ。 リール:俺にも分からない。 リト:本当の家を探して歩いているだけなのか? リール:そう……だろうな。     この手紙が真っ白だったら、俺は一歩も進んでいなかった。     灰色だったら……意味の分からない言葉の羅列だったら、俺は歩み始めなかった。     だから、俺は黒でいたいんだ。      リト:よく分かんねーけど、信念はあるんだな。 リール:信念というほどのものじゃないけどな。 リト:それで、これからも歩き続けるのか?    その、本当の家が見つかるまで。     リール:そのつもりだ。     ここは通過点に過ぎない。      リト:ここを家にしちまったらどうだい?    近くに俺の家があるんだよ。 リール:……それは……できない……。 リト:……そうか。    ま、歩くのに疲れたら、いつでもここで休憩していけよ。     リール:ああ、また、ここに辿り着いたら。     ……邪魔したな。      リト:おう。 SE:足音 リト:……本当に忘れちまったのか。    まあ、仕方ねぇか……。 SE:ドアの音 リリア:おかえりなさい。 リト:よう、遅かったじゃねぇか。 リール:……なぜ二人がここにいる? リト:お前こそ、なんでここに来たんだ? リール:……分からない。     なぜか、この小屋に入りたくなったんだ。 リリア:ここが本当のあなたの家? リール:……どうだろうな……。     ……でも、懐かしい感じがする……。 リト:それじゃ、全部話すか。 リリア:そうね、そういう約束だったものね。 リール:……?     なんのことだ? リト:まあ、聞けよ。    もう……15年も前になるのか。 リール:15年前? リリア:あなたは15年前に事故に遭って、両親を亡くしたの。     そして、孤児になったあなたを叔母が引き取った。     でも、その叔母の評判はよくなかったらしいわ。 リト:その叔母も、仕方なくお前を引き取ったらしいからな。    そして、叔母はお前に虐待を繰り返してたらしい。    あまりの酷い虐待に、お前が医者に診てもらっていることを俺らは知った。    そして、聞いたんだ。    お前は辛い経験を忘れようとして、自己防衛本能が過剰に働いて記憶がなくなってしまっている、ってな。    だから、お前は昔の事を忘れちまったんだ。    俺達三人が幼馴染だった、ってこともな。 リール:二人が……俺の幼馴染……? リリア:そうよ、私もリトもあなたのことはしっかり覚えている。 リト:小さい頃は、よく三人で遊んでいたもんな。    お前が叔母に引き取られるまでは。 リール:…………。 リリア:そして、あなたは覚えていないでしょうけど、私達二人に手紙を送ったの。     Real Back the homeという件名の手紙。     内容は、本当の家に帰りたい、前の生活に戻りたい、というものだったわ。 リト:それで、俺もリリアもお前に対して「うちに来ていいぞ」という返信をした。    Re:Real Back the homeって件名の手紙にしてな。 リール:…………思い出した……叔母は……二人から返ってきた手紙を俺の目の前で破り捨てたんだ……。     この、Re:Real Back the homeと件名に書かれた手紙を……。     だから、俺は残った封筒だけを持って家を出た。     俺の、本当の家に帰るために……。 リリア:やっと、記憶の扉を開け始めることができたわね。     辛い過去でしょうけど……このまま延々と歩き続ける方がもっと辛いもの。     あなた自身も、私達も……。 リール:……そうだ……結局、俺は教会の孤児院で何年も過ごしたんだ。     15年前……そうだ、俺はその時は6歳だったんだ。     一人で生きていける訳もなく、隣町の神父さんに拾ってもらったんだ。 リト:あの田舎街で隣街まで……。    普通、6歳の子供が歩ける距離じゃねぇぞ。    大の大人でも馬車で行く距離だぜ。 リリア:……よっぽど叔母さんの家から離れたかったのね……。 リール:そして俺は……その街の学校に通って、道具屋で働いて……。     ……そうだ、思い出した、1年前だ。     1年前にこの手紙を見て……気が付いたら俺は歩き始めていた。 リト:そのまま、その街で生きていく、という選択肢はなかったのか? リール:俺はそのつもりだった。     その頃は、もう完全に叔母の記憶はなくなっていた。     でも、俺が20歳の誕生日を孤児院で迎えた時、神父さんがこの手紙を返してくれたんだ。     「あなたも、もう立派な大人です、自分が好きなように生きなさい」って。 リリア:手紙を持ったままだと、また歩き出すと思って神父さんが預かっていたんでしょうね。 リール:そうだろうな。     だから余計に、手紙を見た時は衝動的に歩き始めた。     叔母の家から出て、歩き続けていた記憶が俺にそうさせたんだろうな。     その時は、本当の家に帰りたい、という気持ちはなかった。     ただただ、歩いていた……何も、考えず、思い出せず……。 リト:でもよ、お前は「気がついたらこの手紙を持っていた」って言っていたよな。    孤児院で過ごした記憶はどうしたよ。 リール:歩いている時は忘れていた……。 リリア:記憶障害が残っていたのかもしれないわね……。 リール:……そうかもしれない……。     でも、今は……こうして全てを思い出せた。 リト:でもよ、手紙とは言っても、封筒だけだったんだろ? リール:ああ、中身……本文はなかった。 リリア:それでも、手紙の件名だけを見て、自分がどうしたいのかが分かった……。 リール:…………だからか……俺は目的もなく歩いていたんだと思っていたけど……。     歩いていくうちに……手紙を見続けているうちに、無意識に本当の家を探すようになっていたんだ。     リリアは草原が好きだった。     だから、俺はリリアの家を探して広い草原を歩いていたんだ。     そして、リリアに出会って、次は山を目指した。     リトと一緒に山で遊んだ記憶が俺を山に向かわせたんだろうな。     遊んでいたという記憶だけで、そこにリトの家があるかどうかは分からなかったけど……。     ……やっぱり、俺は二人の家を探していたんだ。 リリア:そして、ここに帰ってきた。     ここは、覚えている? リール:……ああ、今、思い出した。     ここは、三人の秘密基地だった。     小さい頃、ここを溜り場にして、いつも夕暮れまで遊んでいた。     ……俺の記憶は、残っていたんだ……。     でも、なんで……二人は会った時にこのことを話してくれなかったんだ? リリア:リトと約束していたの。     あなたに会っても、他人のふりをする。     記憶がなくなったあなたに、急に自分は幼馴染だった、と言っても信じてもらえないと思ったから。     現に、あなたは私を不信に思っていた……。     それに、あなたに昔の記憶を思い出させるのは……正直、怖かった……。 リト:だから、お前がここに帰ってきたら、全てを話そうと思ったんだ。    お前がここに辿り着いたということは、昔の記憶を取り戻したいと思っている証拠だからな。 リール:そうか……ありがとう。 リト:へっ、思ったよりも大丈夫そうでよかったぜ。 リール:ああ……時間が、俺の辛い過去を和らげてくれたんだろうな。     15年……か……。 リト:……長かったな……。 リリア:……ごめんね、かけてあげられる言葉が……見つからない……。 リール:大丈夫だよ。     俺は本当の家を探して、歩き続けることができた。     そして、帰ってくることができた。     今までの歩みは決して無駄じゃない。     こうして、ここに帰って来て、二人を思い出せたんだから。 リト:無事、ゴールすることができたな。    おめでとう。(笑顔で優しく) リール:ああ、ありがとう。 リリア:おかえりなさい。(笑顔で優しく) リール:ああ……ただいま。(笑顔で優しく)